なぜ 東京都平和祈念館建設議案が 凍結されたままなのか

いま、[博物館の原則] が重要

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東京に平和祈念館(仮称)を作ること自体に反対する人はいないのではないでしょうか。前大戦による空襲被害という重大な事実を記す「祈念館」という公的施設を作ることの必要性は、ほぼ全ての都民は認めるでしょう。

▶ 平成 4(1992)年6月、鈴木俊一知事が「平和記念館」建設方針を正式表明「東京都平和祈念館基本構想懇談会」が設置された。

▶ 平成 7(1995)年11月、東京都が「とうきょうプラン’95」(東京都総合3か年計画)において、平和祈念館の建設を計画事業化

▶ 平成 8年5月、東京都平和祈念館(仮称)建設委員会の設置

▶ 平成10年7月、『東京都平和祈念館(仮称)建設委員会報告』が提出される。

▶ 平成11(1999)年3月、東京都が計画する 平和祈念館(仮称)建設案について、都議会予算特別委員会は次のような付帯決議を付して可決。

平和祈念館(仮称)については、次の事項に配慮すること。

(1)平和祈念館の建設に当たっては、都の厳しい財政状況と従来の経過を十分踏まえ、展示内容のうち未だ議論の不十分な事実については、今後さらに検討を加え、都議会の合意を得た上で実施すること。

(2)東京空襲犠牲者追悼碑の早期建立に取り組むこと。

(3)東京空襲犠牲者名簿の収集・作成を平成11年度の早期に開始すること。

(「平成11年東京都議会会議録第6号平成11年3月11日」による)

▶ 平成11(1999)年8月 石原慎太郎知事になって東京都は建設凍結の方針

 以後、諸団体は、都知事や都議会に対して建設への要望書を毎年のように提出しています。にも拘らず、東京都は、平和祈念館建設議案について都議会が付帯決議をして可決したのに、指摘された「展示内容」について、なぜ検討もせず凍結したまま、18年を経た今も検討をしないのか。理由は、当時の財政状況ばかりではないと思われる。

『東京都平和祈念館(仮称)建設委員会報告』

(平成10年7月15日 委員(23名)+専門委員(4名) 約50頁)

検討資料とされたであろうこの報告書は、建設委員会による13回の検討会、建築部会による検討は4回、展示部会が12回行われた。

(注)委員会の庶務は生活文化局、運営に必要な事項は生活文化局長が定める。

提示されていた検討事項は、以下3項目。

(1)  平和祈念館の基本計画に関すること。

(2)  建設及び展示の設計、製作等の基本的事項に関すること。

(3)  その他平和祈念館の建設に必要な基本的事項に関すること。

この「報告書」を読んでみると、

○  建設場所の計画案は、横網公園の地下であることに、賛同する委員と賛同しない委員の意見があった。

○  施設内容と施設規模についても、賛同する委員と賛同しない委員の意見が分かれていた。

○  事業内容については、様々な意見が出て、別途に検討することになっている。

○  常設展示の内容、展示スペースの検討結果は、「考え方A」と「考え方B」があり、Aが支持されているという。その他の意見に、展示場所として地下はふさわしくないという意見が書かれている。

○  最後の個人意見として、民間委員6名の意見が載っており、この計画案に全く納得していない。

『東京平和祈念館(仮称)基本計画』(平成6年5月)を見ると、

○「東京空襲に至る道」とか「今日の平和の諸問題」などの展示項目は事実の検討不足で、解釈する者によっては、承認できない部分があり、それが留保と付帯決議となった。

この東京都が作成した「報告書」と「基本計画」は、都議会に諮る前に、まだ不備な状態で、方向が定まっていなかったように思われます。歴史、法律、政治、国際関係などから成る展示方向の綿密な検討の詰めはまだ浅い。

東京都は、都議会の注文によって見直しをする必要があった。しかし石原都政下の生活文化局は、当時の財政上の理由をつけ、「展示内容」についての指摘に対して検討もせず、放置(凍結)したのではないだろうか。東京都は、今もなお検討する義務は続いています。

今後、再検討を要求するに当たっては、「博物館法」、特に平成24(2012)年7月1日に財団法人 日本博物館協会によって制定された『博物館の原則 博物館関係者の行動規範』があり、この原則は、平和祈念館の原則にも共通するものです。しかも、開館後ばかりでなく、東京都の関係部署、決裁する都議会議員、建設検討委員など、祈念館建設に関わる関係者すべてに共通する規範です。

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 ここには設置目的や使命についての重要な原則がある。都議会から検討を課された「展示内容」などについて必要な行動規範も書かれています。

▽  資料に関する人々の多様な価値観は、その館独自の使命に基づき資料を取り扱う。一つの資料に対する見方は立場によって様々である。必ずしも館の立場に賛同しない人々、あるいは反対する人々もあろう。博物館の関係者は、相反する価値観も存在するということを認識する必要がある。様々な立場による見解に耳を傾け、必要な配慮を行った上で、資料を取り扱い、その博物館の使命を目指すことが求められる。

▽  信頼を得るには、展示や教育普及活動など博物館における情報の発信は、正確な情報に基づいて行われなければならない。事実と解釈の違いを明らかにして、再検証に耐えうるだけの学術的な手続きに則り、客観性を保つ必要がある。

▽  議論が分かれる展示について

学術上、定説が確立されていないことから、定説に疑念が呈されている問題については、行動規範6「調査研究」にも関わる。この規範に基づき、定説が確立していない場合は、複数の見解があることを紹介する、未確定な部分を明示するなど公正な対応が求められる。


 日本の近代史を振り返ると、まさに不整合と矛盾が入り混じっています。、事実と解釈の違いを明らかにする規範、定説が確立していない場合の取り扱い規範を基にした検討されていない。このことが東京平和祈念館の建設を遅らせていると思われます。

よって、展示資料を説明するに当たっては、『博物館の原則 博物館関係者の行動規範』(財団法人 日本博物館協会 平成24(2012)年7月1日 制定)に基づいて再検討する必要があると思われます。

東京平和祈念館建設の案件は、前大戦における空襲による東京都の大半を破壊した甚大な人的、物的被害についての公的調査記録を継承するための極めて重要な案件です。戦後71年経っても、この案件は、都行政と都議会すなわち都民の責務であり、これを躊躇し放置することは、立法・行政不作為の罪、民間戦争死没者と遺族・傷害者、および東京都の歴史への冒涜に値すると思います。

東京都と都議会は、平成11年3月の「平和祈念館建設(仮称)」の議案の付帯決議(1)について、「博物館の原則」に基づいて、適切な展示内容と立地条件を再検討するための、東京都による、都議会各会派、知識人、空襲被害者、「博物館の原則」に関わる参与機関から成る「東京都平和祈念館建設(仮称)計画 検討委員会」を設置する必要があると思います。


                 2017.02.01          西沢俊次