前大戦で、戦場で戦い、飢え、死傷した兵士と巻き込まれた民間人、高射砲や竹やりと火消しバケツリレーで空爆、艦砲射撃などと戦い、死傷をした民間人、兵士など、戦争による被害者は戦後、悲惨な境遇に置かれていました。国は、軍人軍属に昭和27年から、累計50兆円を超す種々法的援護を支給してきました。一方、民間戦争被害者の救済については、過去「戦時災害援護法案」を国会に14回も上程されるも廃案になりました。
[注記]
 平成27年8月6日 「空襲被害者等の補償問題について立法措置による解決を考える議員連盟」(空襲議連)が再発足しています。
 いま、高齢の被害者を立法でどう補償していくか、を検討しています。






 空襲等被害者は、国会は用をなさないために、裁判に訴えました。しかし、名古屋空襲訴訟(1987)、東京大空襲訴訟(2013)、大阪空襲訴訟(2014)等の最高裁棄却判決に続いて、今回、沖縄戦国賠訴訟の一審も棄却判決(2016.03.16)となりました。
  
戦後補償裁判で共通する問題は、三権の一つである司法における裁判官が、国側の答弁書に沿うべく、日本国憲法 第76条3項と第81条に自ら違反することです。
原告側は、不服として高裁に控訴するでしょう。
         

            317日、沖縄タイムスに掲載された
        「沖縄戦訴訟判決要旨」
       の主な棄却理由を
で検討します。
                                              東京空襲遺族会世話人 西沢俊次


理由 ア-()  

沖縄戦争被災者の訴えに対して、「原告らが国民保護義務違反であると主張する被告国による戦争被害は、国家賠償法11項にいう公権力の行使にあたるものであるところ、戦争被害は同法が施行された昭和221027より前に行われた戦争被害であるから、国家賠償法の適用はない。」

「国家賠償法」附則抄に、
   この法律は、公布の日から、これを施行する。
 6 この法律施行前の行為に基づく損害については、なお従前の例による

 と書かれている。
 地裁は、当時の国よる戦争被害は、今の「国家賠償法」の施行前であるから、この「国家賠償法」は適用されないとした。
 しかし、戦争被害は戦後71年を経た今も続いています。
原告らは、今の日本国憲法の第17に基づいて、国家賠償法の適用を訴えているのです。
 司法は今の憲法を基に審理すべきである。

理由ア-()

「被告国が行った戦争による被害は、前大戦中のもので、日本国憲法施行日(昭和2253日)以前の被害である。旧憲法には、国に賠償責任を認める実定法はない。新憲法および国賠法が施行された後の最高裁判例も同様の立場を踏襲している。よって旧憲法の民法の不法行為を根拠に、日本国憲法の施行前に戦争を行った国に損害賠償等を認めることはできない。」

那覇地裁は、前項と同じく現存しない大日本帝国憲法を基にして判断している。旧憲法は、国家賠償法の規定をおいていないし、国家賠償はしないという規定おいてもいないという、天皇制の権威を忖度するような曖昧な憲法であったのではないかと思われます。
 一方、那覇地裁は、唯一存在する日本国憲法の存在を無視している。日本国
憲法第981によって、歴史上の旧憲法に効力はない。旧憲法に“国家賠償法があったか、なかったか”は意味がない。

日本国は戦前を反省、旧憲法を改正した新憲法下にあっても、日本国による戦争被害の事実は依然として続いている。軍・民ともに戦争に起因する傷病者、戦没者遺族は、当時、たいへん悲惨な境遇に置かれている現実が(軍人軍属を除いて)今も続いています。

この状況に対して、国(行政府・立法府)は新憲法の下に救済措置をとる義務があった(1945年から1952年までの被占領下、厳しい報道規制の呪縛を考慮するとしても)。裁判所は、原告ら戦争被災者の訴える事実を目の前にして、唯一存在する日本国憲法の条文に基づく他に判断をする根拠がないではないか。いま効力のない旧憲法と旧法律や、それを基準にした判例を根拠にして判断してはならない。
 国が、いまの憲法下で、同じ国民の、戦争による被害者を救済・援護をせず
70年、少なくとも独立後60年の長きにわたって放置して、経済的、社会的損害を与えている状態は、今の日本国憲法下で違法である。

この不条理解決のために、憲法の第17に「国家賠償法」が用意されています。

理由 イ

「・・・原告らは、公法上の危険責任、の法的根拠として、正義公平の原則としての条理並びに憲法13条及び同法141項を挙げるが、これらから具体的な権利を導くことは困難である。」

旧憲法ではなく、現実を現憲法で審理すべき問題である。

先ず、[個人の尊重] 13条。 戦争によって心身に傷害をうけ、その上家族を失うという、自らの責任ではない戦争被害に因って、不幸な人生を負わされている原告被害者が、第13条に基づいて救済を求める権利は、公共の福祉、即ち社会福祉の向上のために、国会(立法)や政府(国政)は、最大の尊重が必要です。この論理のどこが困難であるか。国会は毎年公共の福祉に有益な、あるいは反しない法律をたくさんつくったり、改正したりしています。

 次に、[法の下の平等] 14条。 戦争に因る孤児や心身障害によって、政治的、経済的または社会的関係において不合理な差別せず、機会均等かつ総体的平等を保障すること。同じ被害者の軍人軍属も救済されているではないか。戦争被害を同じ国民の一般的被害としないことを要求するのは、明らかな具体的な権利です。

理由ウ-()

民間戦争被害者を救済する立法不作為の違法についての地裁の考えは、

「・・・第2次世界大戦にいや応なく巻き込まれた被害者の数は多数に上り、その被害も、原因、経過、程度等において多種多様であることからすると、戦争被害について」、財政事情という制約がる中で、誰に対していかなる内容の補償を行うべきかを決するのは、優れて政策的な判断であり、本来的には立法府に委ねられるべき事柄であって、立法府に広範な裁量が認められる。

そして、その立法不作為が憲法141項の平等原則に違反することが明白である場合というのは、過去の法制度の下で戦後補償を受けられたものと受けられなかった者との差異が、何ら合理的理由がない不当な差別的取り扱いというべき極めて恣意的な立法措置や行政上の運用等によって生じたものであり、立法府においてこのような事態に対処する立法措置を講じないことが著しく不合理である場合などに限られるものと解するのが相当である。」

原告側は、裁判所が補償内容をつくることまでは期待していない。13条や14条を守らない国は、行政・立法不作為の違法を冒していることを訴えている。那覇地裁が書いているように「本来的には立法府に委ねられるべき事柄」であると判断するならば、判決の主文に「国会は空襲等被害者に対する法律」をつくれと勧告する文言を書くべきであった。

なぜなら、国会は昭和48年の第71回国会において社会党など野党議員の提案で、民間戦争犠牲者を対象とした「戦時災害援護法案」が参議院に上程されたのを初めとして、その後昭和63年の第112回国会まで、14回にわたって上程されたが、いずれも廃案となった。その後も多くの国会議員による「戦時災害援護法制定に関する請願」が何度もなされていた。
 

この国会の立法不作為の状況の他に、行政の裁量の逸脱には、二つの例があります。

昭和55(1980)12 11 日、厚生大臣の私的諮問機関の原爆被爆者対策基本問題懇談会意見報告で、冒頭の基本理念において、「戦争という非常事態のもとで国民が何らかの犠牲を余儀なくされたとしても、それは国をあげての戦争による「一般の犠牲」として、すべての国民がひとしく受忍しなければならないものである。」として、完全に厚生行政の代弁をさせています。

もう一つ、総理府総務長官の私的諮問機関・戦後処理問題懇談会により、平和祈念事業特別の基金を創設する旨の報告が内閣官房長官に提出された。この昭和59(1982)12 21 日の「戦後処理問題懇談会報告」の 別添 の冒頭で、以下のように書かれています。

「およそ戦争は、国民全てに対し何らかの損害を与えるものであり、全国民がその意味で戦争被害者といえるものであるが、その中で、戦後処理問題とは、戦争損害を国民の納得を得られる程度において公平化するため国がいかなる措置をとるかという問題である。政府は、これまで、その段階、段階に応じて戦後処理を行ってきたところであり、その結果、昭和42 年、在外財産問題の決着をもって戦後処理は一切終結したことを政府与党間において了解したところである。」

この懇談会の準備会合で、「外務省として、懇談会で取り上げ検討することすら、すべて反対」(外務省課長)、「パンドラの箱をぐっと閉める方向に持って行きたい」(内閣審議室長)などの発言があった。会議はそうした官僚らのお膳立て通りに進んで行ったという。

以上二つの懇談会報告は、民間戦争被害者を救済から除外した証拠で、行政裁量の逸脱と濫用、明らかに故意による行政不作為です。

 このように国会と行政に期待できないから、司法に訴えている。

理由ウ-()

「軍人軍属及びその遺族に対し、恩給法、援護法及び各種の特別法により戦後補償がされているのは、旧日本軍の直接の指導命令下に置かれ、実際に戦地に赴くなどし、戦闘行為など行った結果、負傷し、疾病に罹患、又は死亡するなどしたものであることから、立法府において、戦後補償の立法措置を講じたものであり、不合理であるということはできない。」

判決理由の不合理は、理由ア-() () と同じ。
  憲法第981によって旧憲法は効力を失っている。旧憲法下の軍人軍属は、経歴上の名称はあっても、身分としての効力はない。憲法第14条に挙げられている「社会的身分」であって、経済的関係において優遇されない。民間人も、程度の差はあれ、戦時体制で法律上の行動を制限または強制されました。軍人軍属の被害者も、民間人被害者も、新憲法の下に平等に保障されていないことは、明らかに不合理である。

軍人軍属の被害は、旧憲法での国との契約関係や上官の命令の有無ではなく、新憲法に基づいて救済されるべきであった。軍・民ともに戦争に因る傷病者、戦没者遺族は、当時、たいへん悲惨な境遇に置かれていた事実に対して、第11条、12条、13条、25条などを適用して、例えば「戦争被害者戦没者遺族等援護法」などとして、民間戦争被害者も含めるべきであった。
 法に精通する裁判官が、これまでかくも人権に関する各条項による判断をあえて避ける前時代的風土の背景は、すでに社会に明かされています。

                    

理由 エ 結論
 「以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がない。」

以上の検討によって、原告らの請求は理由がある。
 日本国憲法及び法律にのみ拘束される裁判官が、自ら憲法第76条3項を犯しているのではないか。
少なくとも、判決主文に「国会は空襲等被害者を援護する法律」をつくることを指示する文言を加えるのが適切であったと思われる。

以 上